道具のはなし
昔使っていた「合わせ網」
網と網の間に生地を並べて挟み、手で返しながら焼くというものです。
今ではこの網を作れる職人さんはいなくなってしまいました。(写真左)
現在は「バッタン焼き網」という、5枚ずつ焼ける網を使用しています。(写真上)
「合わせ網にはちょっとした思い出があります。
私が使っていた道具の中で、合わせ網と醤油を付けて乾かす木枠の網には、工場近くにある下町の金網屋さんが作ったものを使っていました。
そこの親方は「俺は、俺の気に入った人の道具しか作らねえ」とよく言っていました。
その親方が亡くなられたあと、ある別の金網屋さんに使い古した親方の道具を持っていき「これと同じ焼き網はできますか」と聞いたら「できるよ」というので注文しました。
その網は確かに見た目は同じようにできていたけど、いざ使ってみると大違い、親方の網は煎餅生地を全部しっかり押さえて焼けたのに、他の人が作った網は火床(ひどこ)の上で返すと必ず何枚か飛び出てしまう。
道具というものが、作る人によってまるで違うものになってしまうことを教えられました。昔は日本中が職人仕事で繋がっていたから、それぞれの職人同士が助け合い、情報交換をして技術向上をはかっていた。相手の仕事を十分理解したうえで作ってくれたから、ピタッと決まった道具に仕上げることができたのだと思う。
職人仕事が少なくなっているのも時代の趨勢で仕方がないことかもしれない。でも、職人のものづくりにかける心がなくならない限り、大切なことは次の時代へ繋がっていくんじゃないかな」
(職人暦44年、佐々木)